ロビン日記

古本屋ロビンの日々を綴っています。

なぜ高くなる?

 先日の新興会での仕入れ。雑多な本を安く仕入れた。 

新興会仕入202305

 

 そういや、今回の新興会で面白いことがあった。市会の流れを説明すると、まず置き入札の開札があって、それから振り市が開かれる。

 

 「置き」ってのはその本を欲しい人が希望金額を書いて入札し、一番高額を付けた人が落札するってシステム。最低入札額は1,000円。特別市とかだともう少し高額の入札額が設定される。

 

 「振り」ってのは声を出しあって金額を競り上げていく方式。よくテレビで報道される魚市場なんかの様子に近いね。そんな「振り」に出品される本には、「置き」で出品されたけど誰も入札がなかった本が出たりもする。これを「引き振り」って言う。

 

 引き振りってのは誰も1,000円でいらないって本が出るわけだから、安値で取引される。通常は同じ出品者の売れ残り数点をまとめて競りにかける感じだね。けど、もともと出品数の少ない人だったり、あるいはほとんどの商品がしっかり売れていて、売れ残りが1点しかないってパターンだと、仕方なしにその1点だけで振られることがある。

 

 この前も、そんな感じで1点だけで振られる本があった。振り手も売れ残りと分かってるので開始価格は500円くらいからスタートする。そこで誰かが声を出せばその人の物になり、声が出なかったらさらに300円、100円……って値を下げて誰かに引き取ってもらう。それでも売れなきゃ出品者が持ち帰ることになる。

 

 ってまぁこんな流れなんだけど、この前はちょっとイレギュラーなことがあった。

 

 500円!

 

 振り手がこのラインからスタートするのは自然な流れ。これを受けて、ある人が

 

 はい!

 

 って声を出した。その値段で自分が引き取るよって意思表示。すると別の人が、

 

 700円!

 

 って値を上げた。振り市は声を出した人が早い者勝ちでもらえるってわけじゃない。他に欲しい人がいれば、その人が値段を吊り上げることもある。この時点で、この商品は700円の値が付いている。ここで終われば自然な流れだった。ところが、

 

 1,000円!

 

 って値が付いた。もともと1,000円で売れ残って振りに回されてるのに、何で1,000円の値が付く? それどころか

 

 1,500円!

 

 って上がり、さらにそれを受けて

 

 2,000円!

 

 との発声。何と1,000円の売れ残り商品が最終的に2,000円で売れたw いやいや、これは意味不明だわ。

 

 全く同じ本でも、店によって客層や得意分野が違ったりするので、人それぞれ査定額が異なる。……これは、よくあること。また、全く同じ本でもドラマ化されたとか、復刻版が出たといった事情で、日によって取引額が大きく変動するってのもよくあること。あるいは、大きな催事を控えて本が必要になったり、在庫がたまったりという店側の事情による需要の変化で価格が変動するってのもよくあること。

 

 けどね~、全く同じ本が、全く同じ日に、全く同じメンバーが見て、何で1,000円でも売れなかったり、2,000円で売れたりするんだ? 意味不明だね。その本が欲しけりゃ置き入札でしっかり札を入れておけば1,000円で買えていたわけだから、2,000円で買うってのは明らかに高値掴み。別に2,000円で買ったからって損をするってわけじゃないけど、本来支払う必要のなかったコストが上乗せされてるので、利益は圧縮されることになる。

 

 実はね、私も引き振りを1,000円以上で買ったことはある。その時は、私は置きの開札時間に遅刻したんだよ。入札に間に合わなかった。それで、仕方なしに振りで買おうと思ったんだけど、競り合いになって高値で買ったんだわ。引き下がった相手は、入札を悩んでいたんだろうね、1,000円までは突き上げたけど、さすがにそれ以上支払うのは馬鹿らしいと考えて諦めた。私としては、本当なら1,000円で買いたかったけれど、入札できなかったのだから仕方ない。遅刻した罰金と思ってそれ以上の支払いを我慢した。……まぁ~、こういうパターンもあるよね。

 

 それと、出品数が多い日には、その本を見落としていたってパターンもある。いい品だけど、多くの出品に埋もれて誰も気づかなかった。けど、1点だけ目の前に出されてみると、なかなかいい本だ、どうしてこれに入札がなかったんだろ? って皆が思うパターンもあるんだわ。こういう時には、1,000円を超えて取引されることもままある。

 

 けど、まぁ理由としては説明がつくけど、やっぱプロとしては恥ずかしいよね。自店に必要な本は、いかに多くの本に埋もれていても見つけ出す嗅覚を養いたい。ただ、忙しく入札しているうちに入れた気になって入札し忘れていたってこともあるから、恥ずかしくはあるけど、まぁ~このパターンで競りあがるのはギリギリ理解できなくもないかな?

 

 この前の新興会でのパターンは上のどの例にも当てはまらない。ゲットしたのは新人さんだったので、おそらく誰かが声を出している本を競り合うのは安心感があったんじゃないかって推察する。置き入札の場合には、誰がいくらくらいで入札するかってのは開札まで分からないので、自分なりの目利きに自信がなければ不安になったりもするんだよね。けど、振りの場合には、目の前で値段が上がっていくので、それなりにいい品なのかな? って思えるんだわ。

 

 こういうパターンで競りあがってもルール違反ってわけじゃないから、何も問題はない。けど、経営的には厳しいだろうね。不要なコストを支払うことになるんだから。それと古書店としての成長って点からもおススメはできない手法だね。このやり方だと、いつまでたっても自分なりの査定基準ってのが養えないから。

 

 古本屋を経営していく上で、無駄な出費ってのは省くに越したことはない。けど、自分の目で査定して、「買いかぶり」をするってのは無駄な出費ではない。たとえその買取りが失敗だったとしても、後々経験が生きてくると思うんだよ。だからそういう出費は相場観を養うための貴重な勉強代……私は、そう思うんだけどね。